タンスと置手紙(かなり前の出来事ですが)

恋の終わりが訪れたら、あなたはどうするだろうか?
自室の中に溢れる思い出を、どうやって消し去ろう?


友人のアリス嬢は可愛らしく、私が男だったら文句なく惚れるであろう乙女だ。
もちろん実際、男の子たちが放っておくわけもなく、告白されること数多しなのである。
「私、K君と別れたんだけど」
「おお!ついに言ったのか・・・」
K君と別れてY君と付き合うことにしたという。
別れを切り出すことは、言う方も辛いのだろう。
私はそんな状況に陥ったことがない。嬉しいやら悲しいやら。
「でね、そしたら私があげたもの全部返すって言うんだよ」
「じゃあi-Podも?K君には悪いけど、そりゃあ良かったねえ」
アリスは彼の誕生日にi-Podをプレゼントしたのだが、やっぱり自分のものにすれば良かったと後々文句を言っていたのだ。
彼が哀れになってくる。
「全部返すって言ってたんだけど、本当に全部だったの」
「ヤドカリも?」(アリスはK君にヤドカリを飼わせていたのだ)
「そうじゃなくて、タンスも!」
「・・・タンス?」
「うん、タンス。って言うか、戸棚っていうのかな。前にあげたの」
「どうやって返されたのさ。持って帰れって?」
「送られてきた」
「ええええ」
「本当」
「何もそこまでしなくても」
「あとね、手紙」
「微妙だなあ。だってさ、自分が書いたものが返ってくるんでしょ?
 だったら破って捨ててくれたほうがいいよね。
 あ、自分じゃ捨てられないからか。
 よっぽどアリスのこと好きだったんだな」
「でもね、手紙って言うほどのでもないものも返ってきた」
「全部とっておいたのか・・・愛だね」
「え〜だって書置きとかもだよ?」
「メモ??」
「『先に行くね』とかさ、それだけのも」
「・・・ほぉ」


自分の周りから別れた恋人の思い出を全て拭い去ることなど無理だ。
胸の傷を癒してくれるのは時間だけ。
それが分かっていても、すぐに忘れようと足掻く。
誰でも同じだろう。
・・・方法は違えど。