気づかいメランコリィ

久々に家族そろってディナーを外で食べることになった。
向かったのは市内で数少ないフランス料理店。3500円のコースを頼み、店内を見回す。私たち以外にお客さんはいない。温かみのある内装で、行ったことはないけど、南フランスのレストランもこんな感じだろうなと思った。様々なサイズのシャンパンが並び、一番大きなものは私の胸ぐらいある(ちなみに私は163cm)。世界最大のシャンパンだそうな。世の中って何でも大きいものがあるのね。
このお店に来たお客さんの写真が貼ってあるので、知り合いがいないかと一枚ずつチェック。その中で、見覚えのある顔を見つける。誰かはわからない、でも、誰かに似ている。笑顔で奥さんらしき女性と写っている男の人。芸能人?それとも教授??首をかしげていると、店員さんがカトラリーを運んできた。
父と弟はこの後観に行くスターウォーズ最新作について話している。かなり面白いらしい、と弟。2人はシリーズの好きなところを挙げて盛り上がっている。私も写真を忘れてヨーダ談議に参加。うちの家族はスターウォーズが好きなのだ。私なんてエピソード●を母のお腹で観ている(何作目か書いたら年がバレちゃうわ。危ないあぶない)。祖母は母が興奮して、私が生まれてしまうのではないかと本気で心配したらしい。
前菜が来た。私は前菜が好き。ここでこれからの料理全ての評価が決まると言っても良いと思っている。始めよければ全て良しなのだ。
ところが来たのは前菜だけではなかった。新たな客が一人、お店に入って来たのである。煙草を美味しそうに吸い、日焼けした肌に短髪、どっかりと腰を下ろしてはいるが何やらそわそわと落ち着かないようだ。男は「ビール2つ」と店員さんに横柄な態度で頼む。弟は「感じ悪ぅ〜」と顔を顰めた。
「・・・先生だ。」私は注文を聞いて確信を持った。そう、男は私の出身高校の教師だったのだ。久々に会った人に「変わらないねぇ」と常に言わしめる私である、先生がこちらを見たら私だとすぐ分かるだろう。先手を打って挨拶をしようかと思い、席を立とうとして気づいた。
先生は独りだ!彼は30代後半にして独身なのである。そして今「家族団欒」をやっている私。挨拶した後、気まずいかも。これはどうしたことかな・・・よし、気づかれないようにやり過ごすんだ!
そういうわけで、私は弟と席を換わり、先生に背を向ける形で夕食を楽しむことにした。相変わらずの大声で店員さんと話をする酔っ払いの先生。プライベートは見たくない物だ。タイミングの悪さを呪いつつ、魚を口に運ぶ私。
だか、事態は新たな展開をみせた。なんと、先生の連れが来たのである。しかも女性だーーー!ますます先生の口は滑らかになり、ますます私の気は重くなる。デートを観ることは面白いかもしれない、でもその場に居合わせること程気まずいことはない。サイテーである。柔らかなステーキも上手く喉を通ってくれない。先生は彼女相手に、今まで担当してきた面白い生徒を話題にワンマンショー。同期の友達の名前も、私の耳に突き刺さる。大好きなデザートに至っても、食欲のなさで食べられない。父も母も私を気遣って、同意を求めたりしないようにし、私の名前も呼ばない。苦笑いを浮かべる弟。私だけでなく家族まで重たくさせるなんて、何故かやりきれない気分である。その間も先生は彼女に息つく間もなく話し続ける。
駆け足で店を出る。スターウォーズを観る気力をなくした私は、母と家へ帰ることに。先生は何も悪くない。でも、私は沸きあがったイライラを先生にぶつけたかった。
「・・・やっぱり田舎は嫌いだ。」私は呟いた。壁にあった写真の男性が先生の弟だと気づいたからだ。