凡人による凡人のためのトリック(母と娘の不毛な会話その1)

ミステリを読んでいると、トリックはどうやって思いつくのだろう?と不思議に思う。そこで母といろいろと考えてみた。


『煙を惜しむように吐き出すと、警部は口を開いた。
「奥さんはティーバックに毒を入れたんですね。被害者は紅茶マニアだった。飲む時間によって、紅茶の葉を選んでいたんです。だから簡単に殺せたわけです。皮肉にも今回の茶会は被害者の旧友ばかりだ。皆久しぶりの再会だったそうですね。旦那さんが紅茶に凝り始めたのはつい最近。他のメンバには犯行はできません。」
「待ってください。僕は彼に会ったと言ったじゃないですか。紅茶に凝っていたことも聞いている。僕以外にも知っている奴はたくさんいるはずですよ。」
 「そうですね。あなたは旦那さんの主治医だ。彼が変死だと聞いたときは焦ったでしょう。検死にかけられるはずがないと思っていたでしょうしね。」
 「何だと?」
 「言っていませんでしたね。被害者の体から砒素が検出されています。致死量を一気に摂取したわけではなく、蓄積されたものです。彼に一定の量を定時に飲ませる、妙だと思わせないように。これは奥さんでないと無理だ。そして第三者として最も早く気づくはずのあなたは知らぬ存ぜぬの一点張り。これはもう、あなたたちの共犯以外ありえない。」』


「・・・火サスか?無理あるなぁ。」
「えぇ〜ティーバックに毒を混ぜるのはいい案だと思ったんだけど。」
「そうだね。でもさ、簡単にトリック思いついたら作家になれちゃうよ。」
ミステリを読むのは、騙されたいから。驚きたいから。それを提供するのは難しいことだ。だからミステリ作家がいる。読者がいる。